株を相続する際の手順は、遺言書の捜索や相続人と相続財産の調査などを含めて6つあります。
株は遺産分割ができますが、注意点に気をつけることが大切です。相続した株の売却手順をはじめ、上場株式・非上場株式の相続方法の違いなどを解説しますので、相続の予定がある人は参考にしてください。
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株の相続方法は上場か非上場かで異なる
株の相続方法は、上場株式か非上場株式かで異なります。具体的に解説しますので、見ていきましょう。
上場株式の場合
まず上場株式についてですが、基本的には証券会社などの証券口座で管理されているため、相続が発生したら管理元の証券会社に連絡を入れ、相続の事実を伝えて手続きをします。手続きの内容は証券会社によって異なりますが、基本的には以下の書類が必要となるでしょう。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員の戸籍謄本
もし被相続人が相続人とは異なる証券会社で株を所有していた場合は、被相続人の株を相続人の株を管理している証券会社に移管できます。
ただし、移管の際には手数料が生じます。また、銘柄などによってそもそも移管できないケースもあるので注意しましょう。
非上場株式の場合
続いて非上場株式についてですが、証券会社は関係がないため、発行会社との間で相続手続きを進めます。具体的には、まずは相続人全員との話し合いの上で遺産分割協議書の作成が必要です。
その後、遺産分割協議書に基づいて代表相続人もしくは各相続人が株の発行会社に連絡し、株名義の書換処理をします。
ちなみに、非上場会社は株主の名簿を作成していないケースがあり、それにより株の帰属についてトラブルになる恐れがあります。もしそのようなことが起きた場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。
株を相続する際の手順
株を相続する際の手順は、以下の通りです。
- 遺言書を探し、相続人と相続財産を調べる
- 相続するか放棄するかを判断する
- 準確定申告をする
- 遺産分割協議をする
- 株の名義を変更する
- 相続税の申告・納税をする
1.遺言書を探し、相続人と相続財産を調べる
まずは遺言書がないか探し、その後誰が相続人になるのか、相続財産は何がどのくらいあるのか調べます。
もし遺言書があれば、相続は遺言書の記載通りに行いましょう。遺言書がなければ、誰が相続人になるのか及び相続財産は何がどのくらいあるのか明確にし、後に「遺産分割協議」を行います。
2.相続するか放棄するかを判断する
続いて、遺産を相続するか放棄するかを判断します。遺産は放棄が認められているため、もし遺産の負債が超過しているようであれば、相続放棄を検討しましょう。
プラスの遺産のみを相続することはできません。
相続放棄ができるのは、相続が開始してから3カ月以内です。3ヵ月以内に書類を揃えて裁判所への提出までを完了させなくてはならず、早めに決断しなければなりません。しかし、一度相続放棄すると撤回はできないため、慎重な判断も求められます。
3.準確定申告をする
遺産を相続する場合は、準確定申告をしましょう。準確定申告とは、被相続人の代わりに確定申告を行い、所得税を納税することです。
準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に行う必要があります。
準確定申告では「確定申告付表」という書類も一緒に提出します。原則、相続人全員の連署が必要なため、他の相続人とも協力して行いましょう。
4.遺産分割協議をする
準確定申告が完了したら、遺産分割協議をしましょう。遺産分割協議とは、遺言書がない場合に、相続人の間で遺産の分割の内容について話し合うことです。
遺産分割協議が成立したら、協議結果を「遺産分割協議書」に記載し、相続人全員の実印を押印します。遺産分割協議は、相続人全員の参加が必須です。
万が一遺産分割協議を行っても話がまとまらない場合は、「遺産分割調停」を申し立て、家庭裁判所で話し合いをします。調停を行っても話がまとまらない場合は、家庭裁判所の裁判官が遺産分割内容を決めます。
■株の遺産分割方法は3種類
株の遺産分割方法は、3種類あります。
- 現物分割
- 換価分割
- 代償分割
1つめは現物分割で、株をそのまま各相続人に分配する方法です。株は分割がしやすいため、現物分割でも揉めにくいでしょう。
2つめは換価分割で、遺産を第三者に売却し、売却代金を各相続人で分け合う方法です。例えば相続人が3人で、株が3,000万円で売却できた場合は、1人あたり1,000万円を受け取ることになります。換価分割のメリットは、遺産を現金に換えるため、平等な分配がしやすいことです。
3つめは代償分割で、相続人のうちいずれかが株を単独で相続し、他の相続人に代償金を支払う方法です。例えば相続人が3人で、株の価値が3,000万円の場合、他の2人に1,000万円ずつ支払うことになります。
■株の遺産分割の注意点
株の遺産分割の注意点は、株の価値は日々激しく変動するため、相続人の間で平等に分配するのが難しいことです。トラブルを避けるためにも、株の遺産分割をする際は、どの時点での評価額を用いるかを話し合いによって決めておきましょう。
特に非上場株式は注意が必要です。上場株式は評価額が東京証券取引所で公表されているため価値を把握しやすいですが、非上場株式については評価が難しいです。相続税計算の際に使う評価方法を利用する方法もありますが、トラブルを避けるためにも専門家に相談しながら決めることをおすすめします。
■株の遺産分割が成立しなかった場合
株の遺産分割協議が成立しなかった場合は、先述の通り家庭裁判所にて調停を行うことになります。それでも話がまとまらなければ、家庭裁判所の裁判官が遺産分割内容を決めます。
ちなみに家庭裁判所にて遺産分割の調停を行う際は、さまざまな書類や収入印紙、郵便切手が必要です。必要な書類は、以下の通りとなります。
【作成が必要な書類】
- 遺産分割申立書
- 当事者目録
- 遺産目録(現金、預貯金、株式等)
- 相続関係図
【集めることが必要な書類】
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍、除籍、改製原戸籍謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本(発行後3か月以内のもの)
- 被相続人の子や代襲者で死亡している人がいれば、その人の出生時から死亡時までのすべての戸籍、除籍、改製原戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続人全員及び被相続人の住民票または戸籍附票
- 遺産に関する資料(不動産全部事項証明書等、預貯金の残高証明書等)
5.株の名義を変更する
株を誰がどのくらい相続するか決まったら、株の名義を相続人に変更しましょう。上場株式の場合は、相続人名義の証券口座へ移管します。もし相続人が証券口座を持っていない場合は、口座開設が必要です。
非上場株式の場合は、発行会社に通知をして株の名義変更手続きを依頼します。もし手続きの手間を省きたい場合は、司法書士や行政書士に代行を依頼するといいでしょう。
6.相続税の申告・納税をする
株の名義の変更が完了したら、相続税の申告・納税をしましょう。相続税が発生するのは、遺産の額が以下の基礎控除を上回る場合です。
相続税の基礎控除: 3,000万円 + 600万円 × 相続人の数
例えば遺産が5000万円あり、相続人が3人の場合は、
3,000万円+600万円×3=4,800万円
が基礎控除額となり、残りの200万円が課税対象となります。
もし相続税が発生するなら、申告と納税は相続開始後10カ月以内に行わなければなりません。相続税の納税は、税務署にて行います。
株の相続の手続きは手間がかかりますが、納税の義務があるため、必ず行わなければなりません。もし、株の相続手続きをせず放置してしまうと、税務署から相続税の申告に関するお尋ねが郵送され、遺産内容の確認や相続税の申告をするよう促されます。
名義書換後の株売却の手順
株の名義書換後の売却手順は、株を一括売買するか、各相続人がそれぞれ株を売却するかどうかによって変わります。具体的にどのような売却方法が異なるのか解説しますので、それぞれ見ていきましょう。
株を一括売却する場合
株を一括売買するのは、先述した換価分割の時です。この方法で遺産を分割する場合は、まず全ての株を現金に換えなくてはならないため、一括売却をします。
具体的な売却手順を説明しましょう。まず代表相続人に対し他の相続人が株売却の処理を委任します。その後、代表相続人が管理証券会社等に口座を開設し、当該口座に全ての株を移管した上でこれを売却します。売却後の現金の分配については、遺産分割協議で決めることになるでしょう。
各相続人が株を売却する場合
各相続人がそれぞれ株を売却するのは、現物分割によって各相続人の手に株が行き渡った場合です。株の所有権は各相続人に移転するため、売却も自由にできます。
具体的な売却手順としては、まず遺産分割協議により株の分割をし、その後各相続人は株の管理証券会社等に口座を開設。そして、遺産分割協議の内容に沿って移管依頼書を作成し、株をその口座に移管します。その後は、自由に売却が可能です。
相続税・遺産分割における株の評価方法
相続税・遺産分割における株の評価方法はそれぞれ違います。例えば、遺産分割に使用する評価額は、相続人の話し合いで決めます。一方、相続税の申告における評価額は、4つの基準の中から最も低いものを選ぶのが通例です。
トラブルを避けるためにも、そして節税のためにも、相続税・遺産分割における株の評価方法を把握しておきましょう。
遺産分割時に使用する評価額は話し合いで決める
遺産分割時に使用する評価額は任意です。つまり、相続人間の話し合いで決めることになります。ただし株価は日々大きく変動するため、遺産分割方法によっては、平等に遺産分割できないかもしれません。
トラブルに発展するリスクを軽減するためにも、被相続人が亡くなった日の株価を評価額とするなど、評価額の考え方をあらかじめ決めておくなどの対応をとることが望ましいでしょう。
相続税の申告における評価額は4つの価格から選ぶ
相続税の申告における評価額は、以下の4つの価格のうち最も低いものになります。
- 相続開始日の終値(被相続人の死亡日)
- 課税時期の月の毎日の最終価格の平均額(亡くなった月)
- 課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均額(亡くなった前月)
- 課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均額(亡くなった前々月)
相続開始日=被相続人の死亡日ですが、もしこの日が土日祝日の場合は証券取引所が休みであるため、評価額がわかりません。したがって、相続人の死亡日が土日祝日にあたる場合は、相続人に死亡日に最も近い平日の株の終値が採用されます。
また、株の銘柄が複数ある場合は、それぞれについて上記の4つの価格のうち最も低いものを選べます。相続財産の評価額が低いほど税額も抑えられるため覚えておきましょう。
証券会社が判明しているか否かによる対処方法の違い
口座のある証券会社が判明しているかによって、株の相続についての対応方法が異なります。判明している場合は株の移管の手続きをしますが、判明していない場合は、証券保管振替機構への問い合わせが必要です。
どちらの場合も、手続きにはさまざまな書類を取り揃えなくてなりません。相続手続きを円滑に進めるためにも、それぞれの対応方法について確認しておきましょう。
口座のある証券会社が判明している場合の対応方法
口座のある証券会社が判明している場合は、まず株を預けている証券会社へ連絡をして、名義人である被相続人の死亡を伝えましょう。その際、株の名義を相続人に変更することも伝えます。
その後、株の相続手続きに必要な書類を用意しましょう。必要な書類は証券会社によって異なりますが、基本的に必要な書類は以下の通りです。
- 戸籍謄本
- 住民票
- 本人確認書類
- 遺産分割協議書
- 遺言書
もし相続人が証券口座を持っていなければ、新たに開設する必要があります。既に証券口座があれば、その口座に株を移管できます。証券口座と必要書類の用意ができたら、証券会社に申請書を提出しましょう。
手続きが終われば、相続人の証券口座に株が移管されます。手続きが完了することにより、株主宛の通知や配当金の受け取れるようになります。
口座のある証券会社が不明な場合の対応方法
口座のある証券会社が不明な場合は、証券保管振替機構に問い合わせましょう。証券保管振替機構とは、株などの証券を預かって保管している機関のことです。証券保管に問い合わせることで、どこの証券会社と取引があるのかを教えてもらえます。
証券保管振替機構に情報開示請求をする際は、開示請求書に必要事項を記入し、必要書類とともに郵送します。必要書類は以下の通りです。
- 開示請求書
- 法定相続人の本人確認書類
- 相続人の戸籍謄本
- 被相続人の戸籍謄本等
- 被相続人の住所がわかる資料
相続した株の配当金について
配当金も相続の対象です。相続開始日によって、配当金の取り扱いは以下のように変わります。
- 相続人の配当所得:配当基準日までに死亡した場合
- 配当期待権:配当基準日の翌日から配当確定日までの間に死亡した場合
- 未収配当金:配当確定日の翌日から受取日までの間に死亡した場合
- 預貯金等:受取日の翌日以後に死亡した場合(預貯金等に振り込まれる)
また、配当金は遺産分割の対象でもあるため、遺産分割協議を行う際は配当金も含まれる点に注意しましょう。
なお、上場企業の株の配当金は、選任の信託銀行などが担当しています。相続発生の際は、企業が委託している信託銀行に対して、配当金の相続手続きを行わなければなりません。
手続きには数カ月かかることも多いため、配当発生時期を見越して、早めに手続きを行っておきましょう。
配当金は相続手続きが終わっていなくてももらえる
相続した株の配当金は、相続手続きが終わっていなくてももらえます。配当金の通知書は被相続人宛に送られることが多く、郵便局などに持参すると配当金が支払われますが、正規の手続きではありません。
後々、トラブルの要因となることも考えられるため、証券口座の相続手続きをしてから、配当金の相続手続きも行いましょう。
株の相続手続きを理解して、相続に備えよう
株の相続手続きはさまざまな書類を用意したり、遺産分割協議が必要だったりと簡単ではありません。しかし、相続人間でのトラブルを防ぎ、節税するためにも、正しい知識を身につけておきたいものです。
また、株の相続手続きはひとりで行うものではないため、相続人全員が知識をつけなければなりません。そのためにも、他の相続人と一緒に相続に関する情報をしっかりと持って相続に備えましょう。
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このコラムの執筆者
MONEY HUB PLUS 編集部
株式会社Fan
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