早期退職とは、本来企業が定めている定年より前に、自らの判断によって退職する制度のことです。早期退職を選択した場合、優遇措置を受けることができるケースがほとんどです。
この記事では、50代で早期退職を選択した方を例に、リスクを抑えたポートフォリオの作り方について解説していきます。ぜひ、参考にしてください。
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ケース1:住宅ローンの返済が残っている状態で早期退職

50代であれば、まだ住宅ローンの返済が終わっていないという方も多いのではないでしょうか。早期退職を選択後、退職金をローンの繰り上げ返済に充てるか、運用に回すかは、今後の収入やライフプランによって異なります。
繰り上げ返済、した方がいいの?
退職金を使って住宅ローンの繰り上げ返済を行うメリットとデメリットをみていきましょう。
- メリット・・・毎月の返済がなくなる/もしくは減る 借入期間を短縮し、金利負担が軽減される
- デメリット・・・手元に残るお金がなくなる 団体信用生命保険がなくなる
住宅ローンの借入時に変動金利を選択している場合、繰り上げ返済をすることで、金利が今後上昇しても、その影響を少なくすることができます。
正社員で再就職を検討している場合、再就職後の収入が安定するまで、ある程度の貯蓄が必要となります。また、生活費や想定外の支出に備えて資金を確保しておきましょう。逆に既に再就職が決まっているようなら、退職金を繰り上げ返済に充てても問題ないかもしれません。
また、繰り上げ返済には手数料がかかる場合がある点にも注意しましょう。既に住宅ローンの金利が低い場合、退職金を繰り上げ返済に使うのではなく、資産運用することも選択肢になります。たとえば、住宅ローンの金利が1%と仮定した場合、2%以上で資金を運用できれば、繰り上げ返済を選択するよりも有利になります。
団体信用生命保険がなくなる点も確認しておきましょう。住宅ローンには「団体信用生命保険」という生命保険がついています。これは、住宅ローン返済中に契約者に万が一のことがあった場合、以後の住宅ローン残高が0になる保険です。
退職金を使って住宅ローンを返済した後、契約者が亡くなるという事態が発生すれば、住居は確かに残りますが、経済的に困窮するということがあるかもしれません。生命保険料の負担を増やしたくない場合、繰り上げ返済をしないという方法もあります。
仮に55歳時点で住宅ローンの元本が1,000万円、金利が1%、返済期間が残り10年とします。早期退職で2,000万円の退職金を得たとします。以下の2つのケースを比較してみましょう。なお、繰り上げ返済の手数料は考慮しないこととします。
【前提条件】
当初借入金額 3,000万円/当初借入期間 35年/当初借入金利 初回から年1.0%/元利均等返済方式/期間短縮方式で返済
- 55歳時点で住宅ローンを繰り上げ返済し、残りの資金から1,000万円を10年間年間2%で運用
25年目に繰り上げ返済を選択する場合、約966万円残っている残金を一括返済します。これで約48万円の借入利息の圧縮ができました(※1)。併せて、1,000万円を年間2%で10年間運用した場合、約1,219万円(※2)の運用結果となります。
- 予定通り10年間かけて返済し、2,000万円を年間2%で運用
当初の予定通り10年間かけて返済し、2,000万円を年間2%で10年間運用した場合、約2,438万円(※2)の運用結果となります。どちらを選択するにもメリット・デメリットが存在するので、一概にどちらが良いとは言い切れませんが、まとまった資金を資産運用に回すことで、複利効果により資産を大きく増やせる可能性があります。
※1 参考 金融広報中央委員会 知るぽると 繰り上げ返済シミュレーション
※2 複利計算をしています。手数料・税金等は考慮していません。計算結果は小数点第2位以下を四捨五入しています。(詳細では1円未満を四捨五入しています)期間は小数点以下を切り上げしています。
年率3%のリターンを目指せるか
ここまで年率2%のリターンを得ると仮定して話をすすめてきましたが、日本銀行は、2013年1月に、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしています。
物価上昇は、お金の価値を目減りさせるという側面があります。日銀の目標を考えると、現状の預金金利だけでは、物価上昇に追いつくのが難しい状況です。そのため、資産を増やしたいのであれば、3%以上の利回りを目指す投資も検討する必要があるでしょう。ここからは、よくご相談にいらっしゃるお客様から具体的な提案を求められることの多い、年率3%の利回りを目標とするポートフォリオの例をご紹介します。
年率3%を目標とするポートフォリオの例
- TOPIXに連動するインデックス型の投資信託 10%
- 国内債券を投資対象とする株式投資信託 50%
- 先進国債券を投資対象とする株式投資信託 30%
- 海外5資産バランス型の投資信託 10%
※あくまでポートフォリオ例であり、将来の運用成果を示唆あるいは保証するものではありません。
ケース2:夫婦でアルバイト収入をメインに生活

50代で早期退職し、夫の退職金を元手に資産運用をしながら、夫婦共にアルバイトをして収入を得る想定でポートフォリオを作成していきましょう。
どれくらいアルバイトで収入を得る必要がある?
令和5年度の厚生労働省の調査では、早期退職を退職事由とした大学・大学院卒の管理・事務・技術職の退職者1人平均退職給付額(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者)は2,266万円となっています。
仮に退職金から2,000万円を資産運用に回すことができたとします。2,000万円を年間5%の利回りで運用できたとしたら、税金を考慮に入れなければ毎年100万円の収入が得られます。
月30万円生活費がかかっていると想定すると、生活費は年間360万円かかる計算です。つまり、資産運用で得られる収入以外に年間260万円を勤労収入で稼ぐ必要があります。お互いが年収130万円〜150万円をアルバイトで稼ぐといったところでしょうか。
この場合、どちらも社会保険料の納付義務が生じる可能性があるので、手取りを増やすために少し働く時間を増やすことになるかもしれません。(2024年現在の制度内容を参考に記載していますが、制度は変更になる可能性がございます。)
もし、アルバイト先で社会保険に加入することとなれば、引き続き厚生年金を納付することになりますが、加入しない場合、65歳以降に受け取れる年金額が減額される可能性があります。
また、健康保険の加入状況が変わることで、医療費負担が大きく変わる可能性があります。
年金受給開始後の生活費をシミュレーションし、不足する場合は、どのような対策を講じるか検討する必要があります。まずは、現時点で自分がどのくらい年金を受給する事ができるのか、毎年誕生月に日本年金機構から送付される「ねんきん定期便」を確認してみましょう。
出典 厚生労働省 令和5年就労条件総合調査概況 4 退職給付(一時金・年金)の支給実態
2,000万円で資産運用シミュレーション
先程、退職金から2,000万円を年間5%の利回りで運用すると仮定しました。ここからは、2,000万円をどのように運用していくか、ポートフォリオを作成してみましょう。
50代中頃までのミドル世代であれば、ある程度リスクをとった運用も検討できますが、50代後半以降のシニア世代であれば、できるだけ資産を減らすことなく、リスクを抑えて安定的に運用することが大切です。
複数の金融商品を組み合わせて保有することで、ひとつのリスク要因に集中して大きな損失が出る可能性を低減できるかもしれません。
では、2,000万円を投資する際の具体的なポートフォリオの例をご紹介します。年率5%の利回りを目標とします。
年率5%を目標とするポートフォリオの例
- TOPIXに連動するインデックス型の投資信託 10%
- 国内債券を投資対象とする株式投資信託 30%
- 先進国債券を投資対象とする株式投資信託 40%
- 先進国株式を投資対象とする投資信託 20%
※あくまでポートフォリオ例であり、将来の運用成果を示唆あるいは保証するものではありません。
早期退職を選択する前にマネープランを策定しよう!

東京商工リサーチの調査によれば、2024年1-9月に「早期・希望退職募集」が判明した上場企業は46社(前年同期30社)で、前年同期の1.5倍に達し、すでに2023年年間(1-12月)の41社を超えたとあります。対象人員も、8,204人(同2,066人)と前年同期の約4倍と大幅に増加し、上場企業の「早期退職」の募集が加速しています。
今後も、金利上昇や為替の乱高下が予想され、経営環境は一層不透明さを増しています。早期退職を選択する人も増加していくのではないでしょうか。
早期退職は、人生設計の大きな転換期です。 今すぐ検討していなくても、将来の選択肢を広げるために、今のうちから準備をしておきましょう。社会は常に変化しています。いざという時、慌てずに自分らしい未来を描けるよう、資産運用について考えてみませんか?
このコラムの執筆者

MONEY HUB PLUS 編集部
株式会社Fan
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