学校法人の資産運用ガイド|基本と注意点を解説

学校法人の資産運用ガイド|基本と注意点を解説

法人向け 資産運用

この記事のポイント

  • 学校法人の資産運用においては、一般企業とは異なり安全性の重視が大原則とされ、投機的な運用は避けるべき。
  • 学校法人が資産運用を進めるにあたって、運用目的と目標利回りの明確化、運用規程の策定が必要。
  • 軸となる商品は、日本国債をはじめとした安全性の高い商品がおすすめ。

「少子化で学納金収入の先行きが不安だ」
「低金利で資産が増えないどころか、インフレで価値が目減りしているのではないか」

こうした悩みを抱える学校法人の財務担当者様や経営層の方々は少なくありません。

長期的な基盤に基づく学校経営と教育の質を維持・向上させるため、「学校法人の資産運用」の重要性が高まっています。

しかし、学校法人はその公共性の高さから、一般的な企業とは異なる厳格なルールのもとで資産を管理する必要があります。

  • 「資産運用は必要だと思うが、何から手をつければよいか分からない」
  • 「法令や文部科学省の指針を守りつつ、リターンを最大化する方法を知りたい」
  • 「どのような金融商品が学校法人に適しているのだろうか」

この記事では、こうした疑問やお悩みを持つ学校法人のご担当者様に向けて、資産運用の基本的な考え方、守るべきルール、具体的な進め方までを分かりやすく解説します。

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学校法人が今、資産運用を考えるべき3つの理由

これまで多くの学校法人では、資産管理の中心は預貯金でした。しかし、今やそれだけでは十分とは言えない状況が生まれています。

理由1:少子化による財政基盤の脆弱化

日本の18歳人口は減少傾向が続いています。これは、多くの私立学校にとって学生・生徒の確保が難しくなり、主要な財源である学納金収入の先細りにつながります。

また、国の財政状況を背景に、私学助成金(補助金)の大幅な増額も期待しにくい状況です。収入源が不安定になる中で、既存の資産を有効に活用し、財政基盤を強化する必要性が高まっています。

理由2:低金利・インフレによる資産価値の目減り

長引く低金利により、預貯金だけで資産を「増やす」ことは困難です。

さらに、近年は世界的な物価上昇(インフレ)が顕著です。教育・研究に必要な物品や光熱費、人件費なども上昇傾向にあります。

例えば、物価が年2%上昇すると、現在1億円の価値がある資産は、10年後には実質的に約8,200万円分の購買力しか持たなくなることになります。

現金・預金のまま保有していると、インフレによって資産の実質的な価値が目減りしてしまうリスクがあるのです。

理由3:将来の教育・研究環境の維持・向上のために

学校法人の使命は、質の高い教育・研究環境を提供し続けることです。校舎の改築、最新設備の導入、ICT環境の整備など、将来にわたり多額の資金が必要です。

資産運用による収益は、こうした将来への投資原資となり、学校の持続的な発展を支えます。

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学校法人の資産運用における大原則

資産運用の必要性が高まる一方で、学校法人は「利益追求」のみを目的とすることはできません。一般企業と異なり、その資産は学生・生徒、保護者、寄付者など多くのステークホルダーからの信頼の上に成り立っています。

文部科学省が示す運用の基本方針とは?

文部科学省の指針をみてみましょう。

【参考】「学校法人の資産運用について」(意見)より(平成21年1月6日 学校法人運営調査委員会)

  • 学校法人の資産は(中略)大切な財産であるため、運用の安全性を重視することが求められる。
  • 元本が保証されない金融商品(仕組債やデリバティブ取引など)による資産運用は、その必要性やリスクを十分に考慮し、特に慎重に取り扱うべきである。

出典:文部科学省「学校法人における資産運用について(通知)」

学校法人の資産は、学生の納付金や寄附金、補助金などで成り立つ「教育研究活動を支える大切な財産」です。要するに、投機的な取引は避け、比較的リスクを抑えて運用することが求められています。

また、「資産運用に関する規程(ルール)」を整備し、理事会が責任を持って管理する体制も重要です。

運用規程には、少なくとも以下の点を明確に定める必要があります。

  • 資産運用の基本方針
  • 保有できる金融商品の内容や取引の範囲
  • リスク管理の方法(資産配分の上限など)
  • 意思決定の手続きと、理事会への報告体制

遵守すべき法令とルール(私立学校法、寄附行為)

学校法人の資産運用は、私立学校法や各法人が定める寄附行為によっても制約を受けます。

  • 私立学校法:資産の管理や運用に関する基本的な事項が定められています。
  • 寄附行為:法人の根本規則であり、多くの場合、資産(特に基本金)の運用方法や処分について制限が設けられています。

これらの法令・ルールを遵守することは、資産運用の大前提です。

参照:私立学校法 | e-Gov 法令検索

「基本金」の取り扱いに関する重要な注意点

学校法人の資産の中でも、特に「基本金」の取り扱いには細心の注意が必要です。

基本金は、学校法人がその活動の基礎として維持すべき資産であり、原則として費消(使い切ってしまうこと)や担保提供が禁じられています。

資産運用にあたっては、この基本金に分類される資産なのか、あるいは事業活動から生じた「余裕資金」なのかを明確に区分し、基本金を毀損するリスクの高い運用は、厳に慎まなければなりません。

参照:基本金の定義:文部科学省

学校法人が資産運用を始める4つのステップ

では、学校法人が実際に資産運用を始めるには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。4つのステップに分けて解説します。

ステップ1:運用目的と目標利回りの明確化

まずは「何のために運用するのか」を明確にします。

  • (例)インフレによる価値目減りを防ぐため(例:年率2%)
  • (例)将来のキャンパス整備費用の一部に充てるため(例:年率3%)

目的が曖昧なままでは、取るべきリスクや選ぶべき商品が定まりません。法人の将来計画と照らし合わせ、理事会などで共通認識を持つことが重要です。

ステップ2:運用規程・ルールの策定と体制構築

次に、ステップ1で定めた目的に基づき、具体的な運用規程を作成します。これは、運用の「基本原則」となるものです。

▼ 運用規程に盛り込むべき主な項目

項目内容
運用目的なぜ資産運用を行うのか
運用対象どの資産(余裕資金など)を運用に回すか
目標利回りどの程度の収益を目指すか
リスク許容度どの程度の損失まで許容できるか
運用商品どのような金融商品(預金、債券、株式、投資信託等)を対象とするか
資産配分各資産(預金、債券など)への投資比率の上限・下限
意思決定体制誰が運用を判断し、誰が承認するのか(例:資産運用委員会、理事会)
報告体制運用状況をどのようにモニタリングし、報告するか

これらのルールを明文化し、組織として運用に取り組む体制を整えることが、ガバナンス(組織統治)の観点からも不可欠です。

ステップ3:運用商品の選定(安全性の高い資産を軸に)

運用規程が定まったら、具体的にどの金融商品に投資するかを選定します。

法人では、運用の中核を「日本国債」や「地方債」といった公共債としているケースがよく見受けられます。

ただし、公共債を中核としつつも、運用規程の範囲内で「余裕資金」の一部を投資信託や株式などの他の資産に配分することも考えられます。

その際は、リスク管理の一般原則として、「単一の資産に集中投資しない」という分散投資の考え方を厳守することが重要です。

ステップ4:定期的なモニタリングと見直し

資産運用は「始めたら終わり」ではありません。

  • 運用状況は運用規程通りに進んでいるか?
  • 目標利回りは達成できそうか?
  • 市場環境の変化に伴い、資産配分を見直す必要はないか?

これらを定期的にチェック(モニタリング)し、理事会などへ報告する仕組みが重要です。

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学校法人の資産運用でまず検討されることが多いのは「日本国債」

資産運用には様々な選択肢がありますが、学校法人の資産運用では、一般的に安全性が高いとされる運用対象の一つが「日本国債」です。

  • 日本国債とは?
    • 日本国が発行する債券のことです。
    • 投資家(この場合は学校法人)からお金を借りる代わりに、定期的に利子を支払い、満期(償還日)に元本を返済することを約束します。

日本国債が学校法人の資産運用で選ばれることが多い理由

理由1:発行体が日本国である「高い信用度」

日本国債の最大のメリットは、その信用度の高さです。発行体である日本国が債務不履行(デフォルト)とならない限り、利子と元本が約束されています。

学校法人の資産は、元本毀損のリスクを極力避ける必要があります。その点で、日本国債は、債務不履行(デフォルト)リスクは低いと考えられますが、市場価格の変動や金利変動による評価損の可能性はあるため、リスクを理解した上で検討することが重要です。

理由2:「公共性」と親和性の高い運用対象

学校法人の資産は、公共の財産という側面を持ちます。投機的な運用や、社会的な批判を受ける可能性のある投資先は避けるべきとされています。

日本国債は、国の政策や公共事業の財源として発行されるものであり、学校法人の『公共性』という原則と親和性が高い運用対象と言えます。ステークホルダーへの説明責任(アカウンタビリティ)を果たしやすい点もメリットです。

理由3:満期(償還日)と利率が確定している安心感

日本国債は、発行時に期間(例:3年、5年、10年)と利率(クーポン)が定められています(※一部の変動利付債などを除く)。

「いつ利子が入り、いつ元本が戻るか」が明確なため、将来の資金計画や事業計画が立てやすい特徴があります。

学校法人の資産運用に関するよくある疑問Q&A

最後に、学校法人のご担当者様からよく寄せられる質問にお答えします。

Q1. どのくらいの資金から始めるべきですか?

一概に「いくらから」という基準はありません。重要なのは、当面使う予定のない「余裕資金」の範囲内で行うことです。

まずは、法人の財務状況を精査し、運用に回せる上限額を定めることから始めてください。

Q2. 運用のパートナー(金融機関やアドバイザー)はどう選べば良いですか?

学校法人の資産運用は、長期的な視点と専門知識が必要です。信頼できるパートナー選びは非常に重要です。

以下の点を確認することをおすすめします。

  • 学校法人の特性を理解しているか? (法令や会計ルール、安全性の重視など)
  • 長期的な視点でアドバイスをくれるか? 
  • 手数料(コスト)は明確か?
  • 幅広い商品ラインナップを持っているか? 

まとめ:持続可能な学校経営のために、学校法人の資産運用を

本記事では、学校法人が資産運用を考えるべき理由から、守るべきルール、具体的な進め方、そして運用の基盤となり得る日本国債について解説しました。

少子化やインフレといった厳しい環境の中、将来にわたり質の高い教育・研究を提供し続けるためには、「資産を守り、育てる」という視点が不可欠です。

とはいえ、現状の余裕資金をどの資産にどのくらい配分すべきかを判断するには、専門的な知見が求められます。

  • 自法人に適した運用規程が分からない
  • 余裕資金をどう運用すべきか悩んでいる
  • 現在の運用状況を客観的に評価してほしい

このようなお悩みをお持ちの学校法人の皆様は、ぜひ一度、私たち「投資信託相談プラザ」にご相談ください。

私たち「投資信託相談プラザ」は、特定の金融機関に属さない独立系のアドバイザー(IFA)として、中立的な立場からお客様の資産運用をサポートしています。

学校法人様の公共性や安全性を第一に考慮し、法令や運用規程の遵守を前提とした運用方針の策定(国債と他の資産のバランスなど)から、具体的な商品選定、アフターフォローまで、ワンストップでご相談を承ります。まずは、お気軽にご相談ください。

このコラムの執筆者

木村 晴彦

株式会社Fan IFA

大手証券会社にて個人富裕層、中小企業経営者等を中心に数多くの資産コンサルティングを経験、社内表彰多数。大手金融機関で実現できることに限界を感じ、お客様と長期に渡るお付き合いが可能なIFAに共感し転職を決意。現在はIFAとして、資産運用を始め、相続や事業承継・保険・終活など様々なご提案やセミナーも行いながら、幅広い顧客の支持を受け活動中。プライマリー・プライベートバンカー(日本証券アナリスト協会認定)/AFP(日本FP協会認定)/終活カウンセラー(終活カウンセラー協会認定)/2級DCプランナー(企業年金総合プランナー)

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