政府は2022年11月28日に新しい資本主義実現会議にて、資産所得倍増プランを決定しました。そして、2023年を「資産所得倍増元年」とし、「貯蓄から投資へ」のシフトを大胆かつ抜本的に進めていく方針です。
本記事では新NISA制度やiDeCoの改革など、資産所得倍増プランの内容について紹介します。
資産所得倍増プランとは
2022年11月28日、政府は新しい資本主義実現会議にて、資産所得倍増プランを決定しました。我が国の家計金融資産の半分以上を占める現預金を投資につなげ、「成長と資産所得の好循環」を実現させようというものです。政策を総動員し、貯蓄から投資へのシフトを大胆・抜本的に進める方針が示されています。
このプランの内容について、詳しくみてみましょう。
資産所得倍増プランの概要
資産所得倍増プランには、7本の柱があります。
- 家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるNISAの抜本的拡充や恒久化
- 加入可能年齢の引き上げなどiDeCo制度の改革
- 消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設
- 雇用者に対する資産形成の強化
- 安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実
- 世界に開かれた国際金融センターの実現
- 顧客本位の業務運営の確保
現預金が投資に繋がらないことの要因として、以下の理由が挙げられます。
- 余裕資金がない
- 資産運用に関する知識が少ないことが不安
- 投資商品の購入や保有をすること自体が不安
依然として日本では、投資に対する心理的なハードルを高く感じる人が多い傾向にあります。こうした状況を踏まえ、家計金融資産を積極的に投資へ繋げるためには、NISA等の制度を簡潔でわかりやすいものに改善し、資産運用に関する国民の知識不足の解消や不安の払拭に向けた取り組みが必要であり、このプランの策定に繋がりました。
資産所得倍増プランの7本の柱について、詳しくみていきましょう。
1.家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるNISAの抜本的拡充や恒久化
NISAとは、毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品から得られる利益への税金(20.315%)が非課税になる制度です。
現在、NISAは、「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3つの商品があり、そのうちジュニアNISAは2023年で終了します。
現行NISAは資産形成の入口として使われています。しかし、口座を開設してそのままにしているなど、制度の複雑さから上手く活用できていないケースも散見されます。
2024年から始まる新NISAは、つみたて投資枠・成長投資枠の利用枠から成り立っています。前者がつみたてNISA、後者が一般NISAと同様の制度となっていて、双方は併用が可能です。新NISAは仕組みをシンプルにした上で恒久化を図り、非課税保有期間の無期限化と非課税限度額の引き上げを進めます。
新NISA制度導入により、日本における家計金融資産が更に増加することが期待できるでしょう。新NISA制度については、後ほど解説します。
2.加入可能年齢の引き上げなどiDeCo制度の改革
iDeCo(イデコ)は個人型確定拠出年金のことで、確定拠出年金法に基づいて実施される私的年金制度です。毎月掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用します。
毎月支払う掛金は全額「所得控除」になり、運用利益は非課税です。年金の受取時にも、「退職所得控除」または「公的年金等控除」という税制優遇制度を設けています。
iDeCoの加入年齢は2022年5月より60歳までから65歳に変更となりました。また、2022年10月からは、企業型DCとiDeCoを併用できるケースが増えました。こちらについても、後ほど解説します。
3.消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設
投資について心理的なハードルが高いことの理由の一つに「知識不足による懸念」が挙げられます。金融機関に対して、敷居が高いと感じたり、商品内容がよくわからないまま勧誘されるのではないかという不安を感じる人も少なくありません。
こうした状況を踏まえ、消費者の知識不足を解消し、信頼して相談ができる中立的アドバイザーが求められています。中立的なアドバイザー養成のための事業として、中立的アドバイザーの認定や、継続的に質の高いサービスを提供できるように支援を行う方針です。
ちなみに、投資信託相談プラザでは、IFAと呼ばれる「独立的な立場でお客様に資産運用のアドバイスを行う金融の専門家」がお客様へ様々なご提案を行っています。IFAは、あらゆる金融機関から独立し、特定の金融機関の利益のために営業することはありません。今後も、中立的な立場から、信頼できるアドバイスの提供に尽力していきます。
IFAについてはこちらの記事で解説しています。ぜひご覧ください。
IFAとは?資産運用相談する上でのメリットやデメリットを解説
4.雇用者に対する資産形成の強化
岸田政権の掲げる「新しい資本主義」を実現するためには、国民全体の所得水準の向上が喫緊の課題といえます。
政府は雇用者の保有する金融資産からの所得を拡大し、持続的な企業価値向上の恩恵が家計にも及ぶという好循環が起これば、課題の解決に繋がると考えています。このために、企業による雇用者への資産形成の強化が必要と考えられています。
ここでも中立的な認定アドバイザーを活用し、職域において中立的な認定アドバイザーを活用した資産形成の取り組みを企業側に促します。資産形成の取り組みとしては、持株会の活用や、従業員向けに金融リテラシーを身につけるための研修やセミナーの実施が検討されるでしょう。
5.安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実
2022年に金融広報中央委員会が行った「金融リテラシー調査」(※)によれば、金融経済教育について、「金融教育を行うべきと思う」と回答した人は全体の71.8%にのぼりました。
政府や各業界団体など、学校や社会人向けに金融経済教育を実施していますが、まだまだ金融経済教育が浸透していないと感じる人は多い傾向です。政府は令和6年度中に金融経済教育推進機構(仮称)を設立し、企業による社員への継続教育の充実や、地方自治体による金融経済教育の全国的普及を目指します。
これから金融経済教育を企業が提供するべきタイミングが増えることが予想されます。ただ、金融経済教育を企業側が提供することは、経験の少ない担当者にとってはハードルの高いものとなるでしょう。
さて、投資信託相談プラザでは、従業員向けのセミナーや講師の派遣、個々のニーズに合わせた資産運用・資産形成のコンサルティングを行っています。
実績も豊富で、投資信託相談プラザの個人向け資産運用セミナーは全国各地で開催されており、2020年から2022年の3年間だけでも1万8,000人以上、2015年から2023年1月までの累計では延べ3万人以上が参加しています。
ご興味のある方は、こちらをご覧ください。従業員向け研修&セミナー
6.世界に開かれた国際金融センターの実現
民主主義国家である日本は、安心・安全な生活・ビジネス環境があり、経済規模も大きく、約2000兆円の家計金融資産が存在しています。こうした利点を最大限に活用し、世界の成長資金を日本の市場へ円滑に取り込むことで、日本の国力の増大をはかることを目標にしています。
- 新たな成長に資する金融資本市場の活性化
- 金融行政・税制のグローバル化
- 外国籍の高度人材を支える生活・ビジネス環境整備と効果的な情報発信
この3つを進めていく方針です。
7.顧客本位の業務運営の確保
販売会社は、リスクがわかりにくく、期待リターンに比べると、コストが合理的でない可能性のある商品を販売しているのではないかと疑念を抱かれることがあります。投資初心者でも商品内容が理解できるよう努力し、顧客の利益を第一に考えて行動することが求められています。
2017年に金融庁によって「顧客本位の業務運営に関する原則」が定められ、各金融事業者は顧客本位の業務運営を行ってきました。政府はこれまで資産運用の経験のない人へも資産運用に積極的に取り組んでほしいと考えており、更に厳しく顧客本位の業務運営が求められることとなるでしょう。
「貯蓄」から「投資」へ!新NISAのポイントを解説
7本の柱の中でも、多くの人が強い関心を寄せているのがNISAの制度改正でしょう。ここからは、新NISAの制度改正のポイントを解説していきます。
新NISAの詳しい内容については、こちらの記事で解説しています。ぜひこちらもご一読ください。
2024年から始まる新NISA制度とは?変更点やメリット・デメリットを解説
新NISA制度の4つのポイント
2024年1月から新NISA制度がスタートします。新制度のポイントとしては以下の4つが挙げられます。
- 年間投資額の大きな増額
- 非課税期間の無期限化
- 投資枠の再利用が可能
- 現行NISAと新NISAは並行して運用が可能
4つのポイントについて、詳しくみていきましょう。
1.年間投資額の大きな増額
現行NISAの年間投資枠は、
- つみたてNISAが最大40万円/年
- 一般NISAが最大120万円/年
また、この2つの投資枠は併用ができませんでした。
新NISAでは、年間投資枠の大幅な増額が予定されています。
- 「つみたて投資枠」で最大120万円/年
- 「成長投資枠」で最大240万円/年
2つの利用枠を併用できるため、年間最大360万円まで投資可能となります。
また、非課税で保有できる金額も増え、新NISAでは最大1800万円(うち1200万円は成長投資枠)が限度額です。
2.非課税期間の無期限化
非課税保有期間は現行の一般NISAで5年、つみたてNISAで20年でした。新NISAでは共に無期限となり、保有期間に関係なく非課税で運用が可能です。
運用益が大きくなるほど、税金が掛からないインパクトは大きくなります。
3.投資枠の再利用が可能
商品を売却することで枠の再利用が可能です。現行NISAでは復活せず、枠は使い切りでした。利用者にとって嬉しい改善点となります。
4.現行NISAと新NISAは並行して運用が可能
現行NISAと新NISAは別口座で管理されます。現行NISAで2024年以降に運用を続けていても、(新規の購入はできません。)2024年から新NISAでの運用が可能です。また、2024年以降も運用を続けるにあたって、金融機関での手続きは必要ありません。
既に現行NISAで保有している商品を売却する必要はありません。購入時から一般NISAは5年間、つみたてNISAは20年間、そのまま非課税で保有可能で、売却も自由にできます。
現行NISAは新NISAの非課税保有限度額には含まれないので、2024年からの1,800万円の非課税限度額とは別カウントになります。
iDeCo制度の改⾰内容とは?
7本の柱の2項目目に登場したiDeCoについても、制度の改革がなされました。
iDeCoは、個人負担で始める私的年金制度です。運用は個人で行います。掛金額も個人で調整可能ですが、利用している年金制度などによって上限額が異なります。将来に備えるだけでなく、節税にも生かすことのできる制度です。
2022年から施行されているiDeCo制度の改革内容を詳しくみてみましょう。
受け取り開始可能年齢が75歳まで拡大(2022年4月~)
2022年4月1日から、iDeCoの老齢給付金の受給開始時期の上限が70歳から75歳に延長されました。
iDeCoの老齢給付金の受取開始時期は、60歳(加入者資格喪失後)から75歳の間で選択が可能になりました。
公的年金も同じ時期に75歳までの繰下げが可能となり、多様化する働き方や生活スタイルに合わせられる制度改革が行われています。
加入可能年齢の拡大(2022年5月~)
加入年齢が60歳までとなっていましたが、2022年5月1日からは60歳以上65歳未満(※)まで年齢要件が拡大され、資産形成できる期間が延長されました。
60歳以上でも、会社員や公務員といったサラリーマンとして働く場合、あるいは任意加入被保険者として国民年金に加入している場合には新たに加入でき、資産形成・運用の機会が増えています。
※公的年金の加入期間が120月に満たない等、国民年金第2号被保険者であれば65歳以上も加入可能
企業型確定拠出年金とiDeCoの同時加入要件の緩和(2022年10月~)
また、2022年10月1日からは企業型DCとの同時加入の要件が緩和され、加入しやすくなっています。これまでiDeCoでは、企業型確定拠出年金の上限をiDeCoの拠出限度額分引き下げる労使合意・規約の変更がなければiDeCoとの同時加入が認められていませんでした。
2022年10月からはこの要件が緩和され、企業型確定拠出年金に加入していても、一定のルール内で本人の意思によりiDeCoの利用が選べるようになっています。
今後の改正予定(2024年12月~)
iDeCoの拠出限度額が変更になります。確定給付型の他制度を併用する場合(公務員を含む)のiDeCoの拠出限度額が1.2万円から2万円に引上げられます。
また、iDeCoの掛金を拠出できなくなった場合(5.5万円からDB等の他制度掛金相当額を控除した額が、iDeCoの掛金の最低額を下回る場合)は、資産額が一定額(25万円)以下である等の脱退一時金の支給要件を満たした場合に脱退一時金を受給することができるようになります。
2022年のiDeCoに関する改正によって、多くの方にとって使いやすい制度になりました。例えば、「50代でiDeCoを始めようと考えているが、もう時間がない。」と悩んでいた方にはiDeCoを始めるチャンスともいえます。
資産所得倍増プランを上手に活用しよう
政府の資産所得倍増プランにより、将来に向けた資産形成の機会が増える予定です。新しいNISA制度やiDeCoの改革により資産運用がよりスムーズにできるようになり、ただ貯蓄する時代から、投資で資産形成していく時代へと変わりつつあります。
資産所得倍増プランを上手に活用し、資産を増やす計画を立ててみてはいかがでしょうか。
このコラムの執筆者
MONEY HUB PLUS 編集部
株式会社Fan
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