2024年現在、米国の資産運用業界は急速な変化を遂げています。このレポートでは、現地金融機関や事業者へのヒアリングを通じて得られた最新情報に基づき、現在の米国資産運用の動向を詳細に分析します。
※2024年9月17日から25日まで8日間の日程で、日本金融商品仲介業協会(以下、FA協会と表記します)の米国視察が実施され、投資信託相談プラザのIFA2名が参加いたしました。
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INDEX
米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーの実態
2024年9月18日から3日間にわたって、オハイオ州コロンバスにて、主に米国のファイナンシャルアドバイザー、運用会社、保険会社など1,000名以上が参加する大規模な業界イベント、FPA Annual Conference 2024が開催されました。
イベントでは、ファイナンシャルプランニングにおける様々なデータを用いた多くのセッションがありました。私たちも複数のセッションに参加し、最新の知見を得ることができました。まずはそこで見聞きした、米国のIFAの実態についてレポートします。
米国で存在感を増すIFA
近年、米国ではIFAの存在感が増しており、大手金融機関に所属する営業担当者は減少傾向にあります。IFAへ移行している背景としては、大きく3つあげられます。
- 顧客本位への意識の高まり
- 手数料体系の変化
- 規制強化
米国では、2020年6月に米国証券監督当局である証券取引委員会(SEC)が「Regulation Best Interest」(訳:最善の利益に関する規則)を含めた新しい規制を公表しました。この規制の導入により、顧客本位の意識がさらに強化されることが期待されています。
また、営業担当者がIFAに転身する理由として、所属金融機関から過度な収益ノルマなどを課され、顧客本位のアドバイスが難しいことに不満を抱き、顧客に最善のアドバイスを提供するためIFAへの転身を考えることも多いようです。これは、日本でも同様の傾向が見られます。
また、IFAの中でも運用残高による手数料体系の残高フィー型のサービスを提供するRIA(投資顧問業者)の登録者数が増加しています。これは、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)規則において、残高フィー型サービスの提供者は一部が免除されるためです。
「ストレスなく、ぐっすり眠れる資産形成」をサポート
今回の視察では、米国で中堅のRIA法人Curi RMB CapitalとTSG Advice Partnersの2社に訪問しました。まずはCuri RMB Capitalでのヒアリング内容についてお伝えします。
緻密なヒアリングで顧客のゴールを見定める
所属アドバイザーは顧客のリスク許容度に応じたゴールベースでの運用アドバイスを徹底しています。ゴールの設定のためには細かいライフプランを把握する必要があります。
サービス開始時のヒアリングにかなりの時間をかけます。顧客の収入や資産、支出の状況など、細かい点までヒアリングします。そのヒアリング内容をもとに、専任の投資チームが運用プランを作成し提案します。
運用プランの策定にはモンテカルロ分析を用いて、さまざまなポートフォリオを作成し、顧客のリスク許容度に応じて、運用資金を枯渇させることなく目標金額を達成するためのプランを策定します。
従業員の役割分担が徹底されており、顧客へのフォローにかなりの時間を割いています。相場の下落局面においても、ゴールを再認識させ、顧客が不安を感じないような関係性の構築を目指しています。
ホームランを狙う資産形成ではなく、リスクを比較的抑えた「夜も眠れる資産形成」をサポートしています。
米国のIFAは役割分担を徹底している
次に、荘司 佳勲氏が代表をしているTSG Advice Partnersを訪問しました。
TSG Advice Partners
TSGの代表である荘司氏はアドバイザーとしても活動しており、主にライフプランニングを担当し、運用部門や税務、法律については運用専門者や会計士、弁護士を社内に抱え、チーム制による役割分担にて高度で複雑なニーズにも対応できるよう顧客サービスを展開しています。
地域貢献を大切にし、社内の雰囲気も非常にカジュアルで、「アメリカの証券会社=高層ビル」というイメージではなく身近な相談相手といった印象です。
顧客それぞれにライフプランニングを実施し、運用面ではゴールベースでのポートフォリオ運用(分散投資)を推奨しています。
幅広く包括的なアドバイスが可能な米国IFA
日本の税理士には「税務の代理」「税務書類の作成」「税務相談」などの独占業務がありますが、米国税理士には独占業務がありません。IFAが税務計画まで策定し、資産を守るための戦略を立てます。
どのような家族にも独自の力学や価値観があり、家族間のコミュニケーションがしっかりと取れているかどうかが、世代間における効率的な資産移転のカギとなります。TSGは、家族間のコミュニケーションを促進させるための各家庭別のプランを用いてアプローチを行います。
このように、一人ひとりのライフプランに基づいて運用計画を管理し、税務や個人的なリスク、相続対策まで幅広くカバーした包括的なアドバイスを提供できるところがポイントです。また、それぞれの専門家を擁し、専門分野に応じて分業しています。
弊社においても、ライフプランニングを基にしたゴールベースでの運用アドバイスを基本としています。また、証券会社選びから制度選び、口座開設手続き、ライフイベントに応じた資産形成や保険、住宅ローンなど幅広い分野の相談ができるところも弊社のメリットであり、共通する点も多いと感じました。
この2社のライフプランニングの手法や考え方については、学ぶことが多く、非常に参考になりました。
ライフプランに合わせた投資計画づくりを重視
金融情報サービス会社であるモーニングスターを訪問しました。
モーニングスターはモーニングスタージャパンとして日本でもアドバイザー向け各種営業、提案、管理支援を提供している企業で、2024年3月時点で18.3万人のファイナンシャルアドバイザーと420万人の個人投資家がモーニングスターのプラットフォームを利用しています。
米国の投資家がアドバイザーに求めていること
米国の投資家たちがポートフォリオを作成するにあたって、アドバイザーに求めていることの上位には以下の項目があげられます。
- 自分の求めるゴールを達成すること
- 個人的な状況に合わせたポートフォリオを作成すること
- 自分のリスク許容度と一致していること
- 金銭的なストレスの軽減
対して、「手数料を安く抑える」「高いリターンを期待する」といったことは比較的重視されていないようです。
アドバイザーは、「成長とリスク管理のバランスの取れた資産管理」「顧客に合わせた計画の立案」「ストレスの軽減」を自分たちが提供できるサービスの重要な価値と捉えています。
顧客がアドバイザーに求める役割と、アドバイザーが顧客に提供すべきと考えているサービスに多少の相違点はありますが、基本的な「その人のライフプランに合わせた計画の提案」という点においては一致しているようです。
また、米国の投資家のアドバイザー選択の傾向として、ファイナンシャルな理由よりも感情的な理由で選ぶ人が多いそうです。そして、アドバイザーと密接な関係を構築している人は、ファイナンシャルへの満足度が高い傾向にあるようです。
参考 Morning Star | why do investers hire their financial advisor?
世界有数の資産運用会社で聞いた「投資において大切なこと」
世界有数の資産運用会社であるゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(以下GSAM)とアライアンス・バーンスタイン(以下AB)へ訪問してきました。
GSAMは、世界有数の投資銀行であるゴールドマン・サックス・グループの一部門として、幅広い資産運用サービスを提供している会社です。
GSAMの訪問ではIFAやRIAチャネルを担当しているセールスマネージャーより米国アドバイザーの現状や展望、課題などを伺うことができました。
ここからは、AB社でのヒアリング内容についてご紹介いたします。
顧客のことを知ること>運用パフォーマンス
ABは、世界有数の資産運用会社のひとつです。幅広い投資商品を通じて、世界中の投資家から高い評価を得ています。
ABの訪問ではABのシカゴオフィスのシニア投資アドバイザーであるGreg氏とプライベート・ウェルス・アドバイザー事業部門のシニアバイスプレジデント兼シニア投資ストラテジストのマイケル P ヘネガン氏からサポート体制や顧客サービスの考え方について伺いました。
ここでも運用面のサポート体制は整っており、各部門において役割分担することでアドバイザーは顧客との定期的な面談やライフプランニングに注力することができます。たとえばGreg氏の場合は4人のアソシエイト(サポートスタッフ)がいます。顧客との日常的な入出金やポートフォリオについての問い合わせを処理しています
ABでは個人資産の管理は、顧客が最も大切にしているものを明らかにするところから始めます。価値観・ライフスタイル・慈善活動の目標に至るまでアドバイザーが理解し、お客様の側近として資産管理を行います。
ゴールベースでの運用においては、ライフプランのヒアリングが大切であり、運用のパフォーマンスではなく、顧客のことを知ることに重きをおいているという話が印象的でした。
アドバイザーは対面で顧客に会うことも意識しています。なぜなら、超富裕層と呼ばれる人たちは孤独を感じていることが多いからです。契約上では年2回ですが、もっと頻繁に会うこともあります。遠方に住んでいる顧客には飛行機で会いに行くこともあります。
参考 Bernstein Private Wealth Manegement
米国で最も重要視されているのは「ライフプランニング」
今回の視察では、訪問先の全てでライフプランニングを重要視していることが印象的でした。また、もう一つの共通点として、業務をかなり細かく分担し、アドバイザーが顧客対応に集中できるよう体制を整えている点が挙げられます。
米国のアドバイザーが重要視しているのは、マーケットベースでの運用アドバイスを提供することではなく、ライフプランニングを中心とした「ゴールベースの運用アドバイス」を提供することへと移行しているということを肌で感じることができました。
弊社では、ゴールベースの資産運用を浸透させることを会社のミッションと捉えています。私も今以上にそれぞれのお客様に合わせたゴールベースの資産運用を重要視し、お客様のライフプランに適したアドバイスを心がけていきます。
このコラムの執筆者
谷山 泰彦
株式会社Fan IFA
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外資系生命保険会社に約10年間在籍。保険という1種類の金融商品だけではなく、総合的なコンサルティングを行いたいという思いと共にIFAに転身。現在は金融全般の知識を活かし、資産形成・教育資金・生命保険・相続対策など、幅広い提案を行う。名古屋を拠点に全国で活動中。